多汗症

多汗症は、発汗時に必要以上の汗が出てしまう病気で、症状の程度によっては日常生活のさまざまな場面で支障をきたします。

多汗症の原因

多汗症には、全身に発汗が多くみられる「全身性多汗症」と、手のひらや足の裏、脇、顔、頭部など身体の一部で発汗が多くみられる「局所性多汗症」があります。
また、原因となる病気がある場合や精神的緊張など「続発性多汗症」と、原因が不明の場合「原発性多汗症」に分けられます。

続発性多汗症

特定の病気によって引き起こされる多汗症です。褐色細胞腫や甲状腺機能亢進症、結核などが原因となることがあります。具体的な原因ははっきりとは解明されていませんが、交感神経の過度な働きや精神的な緊張、脳細胞の異常伝達が関与している可能性が高いといわれています。

原発性多汗症

特定の病気によらず、神経障害や感染症、内分泌代謝異常、精神的緊張などが原因となる場合です。このタイプは原因が不明であり、上記の「全身性多汗症」と「局所性多汗症」に分けられます。

以下、主に「原発性の局所性多汗症」について説明します。

多汗症の症状

多汗症は汗が多く出るのが特徴ですが、発汗の程度は個人差が大きいです。
例えば手のひらに多く汗をかくタイプであれば、少し汗ばむ程度から、ノートに汗が滴り落ちて字が書けなくなるものまでさまざまです。

また、脇の汗の場合には汗による湿気が原因となり、皮膚表面の細菌が増えて不快な臭いのもとになることがあります。なお、睡眠中は発汗がおさまっていることが多いです。

多汗症の検査・診断

患者さんの病歴や汗の出る範囲などを問診します。原因となる病気がなければ原発性の多汗症と診断します。

多汗症の治療法

現在治療方法が進んでいるのは、脇の多汗(腋窩多汗症)の治療です。保険適応のある、副交感神経の働きを抑える抗コリン薬の外用剤があります。塗り薬を使用しても発汗によって日常生活に頻繁に支障が出るようであれば、脇にボトックス(ボツリヌス毒素)の皮下注射を行なうこともあります。両脇に数十カ所注射しますが、外用局所麻酔薬などで注射の痛みは緩和することができます。注射後の翌日あたりからすぐ効果がみられ、1回の投与で6〜12カ月ほど効果が持続します。

思春期〜青年期に多くみられる手のひらの多汗症(手掌多汗症)の場合にも、保険が適応される抗コリン剤の外用薬があります。また、汗腺の出口を一時的に塞ぐことで効果を発揮するアルミニウム塩を含む制汗外用剤もあります(保険適応外です)。水道水を使ったイオントフォレーシス(汗の多い手のひらや足の裏を水道水の入った容器に浸して10〜20mAの電流を流すことで発汗を抑える治療法)も効果的ですが、定期的に通院して治療する必要があり、忙しい学生さんや社会人の方などでは困難な治療かもしれません。上記の治療に抗コリン剤の内服を併用することもあります。

全身性多汗症の治療では、抗コリン剤を内服します。抗コリン剤は副作用として便秘になることがあり、投与量の調整や便秘薬の酸化マグネシウム製剤などを併用する場合があります。緑内障や前立腺肥大症の患者さんは、抗コリン剤を内服することができません。

重度の多汗症の場合、手術が検討されることがあります。重症の場合“胸腔鏡下胸部交感神経遮断術(ETS)”が検討されることがあります。ETSは全身麻酔下で内視鏡を使用し、胸部の交感神経節を切除したり、焼き切ったりする治療法です。ETSは患部の汗の量が減少する一方、胸や背中、お尻などほかの部位から汗が大量に出る“代償性発汗”という合併症が生じる可能性があります。

治療法は症状の重さや個々の状況に合わせて選択されるべきです。多汗症が疑われる場合は、まず皮膚科や形成外科の受診を検討しましょう。また治療には、保険適用の治療とそうでない治療があります。そのため、治療を受ける際は専門医から治療の内容や効果・注意点・費用などについて詳しく説明を受け、最適な治療方法を見つけましょう。